高井戸地域・数々の謎を解釈する「高井戸ブランド説」　・高井戸東より東に下高井戸があるのはなぜ?

　高井戸地域の地政学・下高井戸、上高井戸、高井戸(東/西)の分割は必然かに書いた内容は、実は書き方の順序が逆だったかもしれないと気付きました。

　つまり、高井戸地域に存在する「謎」の解釈の1案として捉えると、より分かりやすいのではないかと。

　あらためて、高井戸地域の謎をまとめ直します。

高井戸地域の地理的範囲の定義 §

　ここでは、現在の東京都杉並区に含まれる上高井戸、下高井戸、高井戸東、高井戸西を対象とします。かつて中高井戸と称された地域は含まれませんが、この地域は玉川上水建設時点で離れた場所に移転させられた経緯がおおむね分かっているので、さほどの謎はありません。

高井戸地域の謎 §

• 上高井戸、下高井戸という上下分類と高井戸東、高井戸西という東西分類の2種類が混在するのはなぜか
• 上下は高井戸の前に付くのに、東西は高井戸の後ろに付くのはなぜか
• 駅名としては下高井戸(京王線)、上高井戸(京王線芦花公園駅の旧称)があるのに、それとは別に上下の付かない高井戸(井の頭線)があるのはなぜか
• 高井戸東、高井戸西はおおむね過去には上高井戸の範囲内に含まれていたが、なぜ上高井戸から分離して「上」の無い地名を名乗るようになったのか
• 高井戸地域で最も東に位置するのは高井戸東ではなく下高井戸であるのはなぜか
• 下高井戸(5丁目まである)と比較して上高井戸が狭い(3丁目までしかない)のはなぜか

解釈仮説「高井戸ブランド説」 §

　これらの謎については、広域に通用するブランドと、ブランドの背景にある独立性の高い経済的行動単位を想定すると解釈ができるような気がします。

　これは、現時点では単なるアイデアであり、そのうちに検証可能ならしてみたいと思うものに過ぎません。ですから、信じてはいけません。

　この仮説は、以下のような歴史的な経緯を辿ったと仮定します。(このリストは概略のアイデアであり、正しくない内容や未検証の内容を含みます)

1. 神田川周辺に高井戸という村が成立した
2. 高井戸は2つに分裂し、上流部を上高井戸、下流部を下高井戸と称した (ただし上下の名称は上流下流ではなく、京都に近い方が「上」という命名と考えられる)
3. 江戸幕府が成立し、五街道を整備する。その中で、下高井戸、上高井戸は甲州街道の正式な宿場町として制度に組み込まれる。この時点で、下高井戸、上高井戸は全国規模で名前が知られるブランドとなった (重視されるブランド、有名なブランドでは必ずしも無いが、広域の地図などには名前が書き込まれていたと考えられる)
4. 四ッ谷丸太=高井戸丸太というブランド木材の育成が開始され、高井戸という広域ブランドが出現する。これの本場は上高井戸の一部であった
5. これ以後、上高井戸は「宿場町+農業」を経済的主体とする南部と、高井戸丸太を経済的主体とする北部の連合体という形態になる。しかし、一般的には宿場町の下高井戸、上高井戸、丸太の高井戸という3つのブランドに即した地域があると認識される
6. この3つのブランドは、明治維新後も継続される。特に高井戸丸太は1923年(大正12年)の関東大震災の頃まで有力ブランドとして出荷が続いていた
7. 1913年(大正2年)開業の京王電気軌道は旧宿場町に近い駅の名前として、ブランドとして浸透していたと思われる「上高井戸」「下高井戸」を採用した
8. 1933年(昭和8年)に開業した帝都電鉄は、依然として知名度があったと思われる高井戸丸太の本場に近い駅の名称としてブランドである「高井戸」を駅名として採用した
9. 戦後、杉並区の地名が全面的に見直された際、「上高井戸」は旧宿場町としてのブランドを持つ「上高井戸」と、旧高井戸丸太本場としてのブランドを持つ「高井戸」に分割され、更に「高井戸」は環状八号線を境に「高井戸東」と「高井戸西」に分割された。この時点で、「下高井戸」は元々下高井戸であった地域の多くを保持したのに対し、「上高井戸」はかなりの面積を「高井戸」に分離分割されて縮小した

　問題の要点は、高井戸という名称が元々上下高井戸を包含する上位概念を示す名称であったものが、高井戸丸太というブランドが広域に知られることで、上下高井戸とは別個の「何か」を示す言葉に変質した点にあります。

比喩 §

　たとえば、ラーメン屋のメニューにある「ラーメン」が「ネギラーメン」や「メンマラーメン」を包含する上位概念ではなく、それらとは別個の「特殊な具の入ってない特定のラーメン」を示す構造と煮ています。

　たとえば「ガンダム」は「Zガンダム」や「ガンダムZZ」などを包含する上位概念ではなく、Zガンダム(MSZ-006)でもガンダムZZ(MSZ-010)でもない別機体(RX-78)である、という構造に似ています。

感想 §

　実は、上高井戸、高井戸西、高井戸東、井の頭線高井戸駅等々は、どうもすっきりと良く分からないので敬遠していた側面があります。しかし、こうして考えると「ラーメン屋のメニューにおいてメンマラーメンはラーメンではない」という認識を欠いていたことがわかりにくさを生んでいた可能性に気付きました。

余談 §

　高井戸という地名の語源の説はいろいろありますが、そのうちの1つが「高い井戸」説です。しかし、昔は「高井戸」「高井土」の表記が混在して通用していた(土でも良かった)ことから考えると、「高い井戸」説は信じがたい気がしてきました。しかし、「高井堂」説は「堂」を差し替えて地名にした形になり、「高井」は揺れていないのに「戸/土」が揺れている理由を説明してくれる可能性があります。また、高井氏に由来するという説も、同様に「高井」は揺れない理由を説明してくれる可能性があります。この件も、単なるアイデアのメモのみで未検証です。